【インタビュー記事】たどった縁が、いつしか一本の「参道へ」-善通寺から広げる協力隊の輪

 

今回は令和6年3月まで善通寺市の地域おこし協力隊として活動し、現在は香川県の地域おこし協力隊経験者団体「かがわごと」の代表を務める臼井俊行さんにインタビュー。協力隊となった経緯から協力隊としての活動、そして「かがわごと」についてお話を伺いました。

―本日はよろしくお願いします。まずは簡単なプロフィールということで、ご出身とこれまでの経歴を教えてください。
 岡山県倉敷市出身です。大学進学時に東京へ行き、卒業後は写真関係の会社に就職しました。その後損保の調査会社や広告代理店で働いていました。

―どのような経緯で善通寺市の地域おこし協力隊になったのでしょうか。
 香川県に関係する仕事をしていた時に善通寺市役所の職員さんと知り合ったことがきっかけです。当時募集していたミッションのイメージと私の経歴が合っていると感じたみたいで、応募を勧められました。当時は協力隊のことも知らなかったので、いろいろ調べたり、話を聞いたりしました。行政と仕事をするのは大変かなという思いもあったのですが、その誘ってくれた方が窓口になるなら大丈夫かなと思いましたし、これも何かの縁かなと思い、応募を決めました。
 都市部での子育てに難しさを感じていたことや、私の地元の倉敷にも近いことも香川に移住を決めた大きな理由です。

―善通寺市を選んだというより協力隊の募集があったからという意味合いの方が強いでしょうか。
 そうですね。思い返すと私は強い意志で転職したり場所を変えたりはしていなくて、人に求められて、その人のためになるんだったらということが多かったです。だからそれまでは善通寺市のことも全然知りませんでした。

―実際の協力隊としての活動内容はどのようなものでしょうか?
 着任した時のミッションは善通寺市の特産品である「ダイシモチ」を使った商品開発ですね。ダイシモチについて調べることから始めて、アイデアを出すことを着任後2か月くらい集中してやりました。それから実際に県内企業を15社ほど回りましたが、実際に商品開発するとなると金額面で難しい部分がありました。そこで職員さんと、商品開発以外で広い意味で町おこしになるようなことをさせてくださいという話をして、最初に取り組んだのが「おやつ天国」という冊子を作ることでした。商品開発の際に善通寺市内のお菓子店を調べて、小さい町なのに個性的なお店がたくさんあることに気づいたので、これはお寺以外の善通寺市の売りの一つになるんじゃないかなと思って制作しました。これは、市役所の方にも評価していただき、2020年の初版から現在(五訂版)まで続いています。この仕事を通して、お店とのつながりができたり、私の存在を町の人に認知してもらうきっかけになりました。その後は、善通寺市の古墳をPRするスタンプラリーイベントの「善通寺作戦」、近隣市町の協力隊と一緒に善通寺市内を散策しながら撮影した写真を展示する「まちなか写真展」、廃校の黒板を卓球台にした「黒板卓球」、まんのう町協力隊と連携した「永井だるま」の復刻など、様々な企画を行いました。


黒板卓球企画(廃校の黒板をDIY)

 


市内の古墳を巡るスタンプラリー企画

―活動をしていてよかったことや嬉しかったことはありますか?
 おやつ天国という冊子を作ったことが、すごく協力隊としての活動の中できっかけになっているというか、動き始めたなみたいな感覚があります。元々、広告の仕事をしていましたが、私自身はデザイナーではなく、クライアントとクリエイティブの現場を繋いで調整することが仕事でした。ただ、デザインの仕事をしたいと思っており、おやつ天国は自分のデザイン力を試す場でもあったので、冊子に掲載したお店の方などから喜んでもらったり、評価してもらったりしたことは嬉しかったですし、そういったことがモチベーションになりました。
 また、善通寺作戦は、かなり奇抜な世界観がどう評価されるか心配な面もありましたが、市民の方からネガティブな反応は全然なくて、面白いと言ってくれる人が多かったです。こういう新しいことをどんどん受け入れる雰囲気があることも嬉しかったですね。

―協力隊になる前の協力隊に対するイメージと実際になってみてのギャップや大変だったこと、困ったことはありますか?
 民間と行政のやり方が違うというのはありました。いちいち紙にハンコついて回さなきゃいけないとか。お金(活動費)の使い方についても、よくわからないことが多かったです。ただそれはなってみないとわからないことなので仕方ないですよね。
 そんな中で、職員の方々には色々と助けていただきました。行政の仕組みや風土を教えていただいたり、我々の企画について、行政的なメリットを課長にかみ砕いて説明してくれたり。その分、私も職員さんからお願いされたことは気持ちよく受けようと決めていましたし、「持ちつ持たれつ」の良い関係性が築けていたのではないかと思います。

―活動を通して成長したことや気づきはありますか?
 先ほどの話と被りますが、仕事でデザインをしながら、同時にデザインを学ぶことができたことは大きかったですね。
 あとは、善通寺市のことをよく知ることができました。コロナ禍の特例で4年活動していたということもありますが、端から端まで通ったことない道はないぐらい回って地理的なこともだいぶ分かりましたし、活動を通して飲食店さんや町の人との繋がりもできました。だからこそ、退任後もこの町に住んでいけるなという安心材料を得ることができました。

―活動を通して感じた、善通寺市のいいところはどんなところですか?
 まず人がいいと思います。お遍路文化の影響もあるのか、よそから来た人に対する排他的な感覚は全然なく、むしろ何をしに来たのかとか興味を持たれるくらいです。協力隊の時にカメラを持って街中を歩いていたら、地域の方が興味を持って話かけてくれたりしました。その時から「善通寺の人っていいな」という感覚がありました。
 善通寺は、まだ発展途上というか、可能性の塊だと思っています。みんなこの町をどうにかしなきゃいけないと思っているけど、まだ中心になるような人がいないこともあり、これから皆で町をつくっていけます。
地理的な面で言うと、古墳があったり、旧陸軍の駐屯地があったり、お寺があったりと町として非常に歴史があります。水不足になりがちな香川県ですが、善通寺市は、伏流水が豊富で水不足になりにくかったり、山に囲まれていて台風の影響を受けにくいといった点があり、住んでいて安心感はあります。
 また、迷彩服を着たパパママが保育園に迎えに来ていたり、うどん屋に行くとお坊さんがうどんを食べていたり、町なかにお遍路さんが歩いていたりと、いろんな人間模様が交錯していることも魅力の一つですね。

―では退任後の活動について教えてください。
 いくつかの仕事をしています。まずは、善通寺市内で雑貨と喫茶の店「赤門前日用品店」を経営しています。また週3日、丸亀市で夜立ち飲みの店のマスターとしても働いています。あとは「一般社団法人かがわごと」という地域おこし協力隊のサポート組織の代表を務めています。また、個人としてデザインや撮影の仕事も受けたりしています。

―お店を始めることは協力隊になる前から決めていたのでしょうか?
 色んな可能性を視野に入れていたので着任時には決めていませんでした。協力隊として活動していく中で善通寺に住みやすさを感じたり、地域とのつながりができたことで、善通寺市で何かやりたいなと思うようになりました。また、以前から妻とカフェをやりたいと考えていたのですが、そんな時に今の物件に出会ってお店を始めることを決めました。


臼井さんが営む「赤門前日用品店」

―「かがわごと」の活動について教えてください。
 「かがわごと」は昨年度活動し始めた、香川県の地域おこし協力隊経験者団体です。
 1年目は、坂出市、丸亀市、宇多津町の募集採用支援や各市町へのヒアリング、移住フェアや地域おこし協力隊サミットへの出展を行いました。
 2年目は、それらに加えて、坂出市の協力隊の活動サポートやエリア別交流会の開催を行っています。活動サポートは、協力隊のミッション別に1名は私が、もう1名は副代表の喰代さんが主担当として対応しています。エリア別交流会は東讃、中西讃、島のエリアごとに実施する、協力隊同士や行政職員の交流や相互理解を推進する企画です。
中西讃エリア別交流会の様子


香川県移住フェアin大阪での相談対応の様子

―「かがわごと」に携わるようになった経緯を教えてください。
 協力隊の時から協力隊の横の連携がもっとあった方がいいなと考えていました。実際に当時の多度津町やまんのう町の協力隊と情報交換したり一緒に活動したりはしていたのですが、仕組みとして出来上がっていたわけではなかったので、退任後に中讃エリアの協力隊のサポートができないかなと思っていました。ただ実際にそれを事業にするのは難しいとも思っていました。そんな時に、ちょうど県からネットワーク組織の立ち上げについてお話があったので、代表をお引き受けしたという形です。

―「かがわごと」で今後どんなことに取り組んでいきたいですか?
 協力隊制度は自由度が高い分、運用次第で良くも悪くもなると思います。せっかく何かの縁で香川県の協力隊になったのなら、協力隊本人、行政、地域住民の三者とって、「いい3年間だったな」と思ってもらいたいと、私は思っています。ただ、協力隊個人の能力だけに頼っていると、うまくいかないケースもあると思うので、そこをお手伝いできればと考えています。
 その中で具体的に力を入れたいのは募集のサポートです。というのも活動の中での起こるトラブルは、遡ると「着任時のミスマッチ」に起因するケースが多いからです。そのミスマッチを防ぐためにかがわごととしてできることは募集サポートに入ることだと考えています。その分野では、現場を知っている私たちに強みがあると思っています。いろいろな活動を通して、行政に頼ってもらえるような組織にしていきたいなと思っています。
 また、香川はコンパクトさもあって、全国の中でも独特なカラーがあると思っています。そんなコンパクトなかがわだからこそできるネットワークのスタイルを作れればいいかなと思います。

―最後に協力隊を検討している方へのアドバイスはありますか?
 応募を探す上でのアドバイスでいうと、やっぱり現地には足を運ぶべきだと思います。実際に肌でその土地を感じることは大切だと思います。また、協力隊のミッションは様々ですし、各自治体によって運用のしかたも様々なので、協力隊を「ひとつの職業」として捉えるのではなく、あくまでも自治体ごとに募集情報を細かく見ていくことが必要だと思います。
 活動していく上でのアドバイスで言うと、まず大切なのは周囲の人との人間関係を築くことだと思います。些細なことでも相談できる相手、それは我々のようなサポート組織でも、職員さんでも、地域の方でもいいと思います。もちろん同じエリアの協力隊や、同じミッションの協力隊と繋がることも大事だと思います。協力隊で一番よくないことが孤立してしまうことなので、孤立しないための人間関係を早い段階で築けると良いですね。
 あとは企画力も大事だと思います。協力隊の不満として「やりたいことができない」「所属課から言われたことばかりをやっている」という声を聞くことが多いのですが、そういったケースでは隊員側から「これがやりたい!」という具体的な企画が出せていない場合も多いように感じます。もちろん出した企画が全て通ることは難しいので、アイデアの引き出しが必要ですし、行政にとってのメリットが見えないものはなかなかやらせてもらえないと思います。まず課内の職員さんに相談することも大切ですし、そういった部分のフォローも「かがわごと」の役割だと考えています。

この記事をシェアする
PAGE TOP