平成29年3月27日。
3月末で3年間の任期満了を迎える山岸紗恵さんにインタビューしました。
naoshima colors(直島町空き家バンク)や移住体験施設の運営を通じて、直島町の移住窓口を担いながら直島町のPRイベントを実施するなど、多岐に渡る活動を行ってきた紗恵さん。
任期満了を迎える直前の率直な気持ちを伺いました。
秋吉:先ずは紗恵さん、3年間本当にお疲れ様でした。
今の率直なお気持ちをおしえてください。
紗恵:えー、まだあんまり実感がないんですが、、、
卒業に向けて、色々とできてほっとしている所と、これからの課題がまだまだあるなと両方の気持ちがありますね。
秋吉:なるほど。
ホッとしている部分と課題と感じる部分、それぞれ具体的に伺ってもいいですか?
紗恵:移住定住促進というテーマで3年間活動してきて、そのスタートが切れたなぁという実感はありますね。
1年目に島内全域の空き家の調査をして、2年目に空き家バンク制度と空き家改修補助金制度の整備と同時にNAOSHIMA COLORSというWEBサイトの立ち上げもやりました。
3年目はそれらの運用と改善。あと、写真コンテストの企画・運営もできた。
それでまずは土台がつくれたかなぁと思ってます。
その間、移住をしてきてくださった方も何組かいて、今年その方々に赤ちゃんができたり、そういう楽しみもありました。
▲直島町の暮らしや人の魅力を伝える「NAOSHIMA COLORS」
▲写真展「直島のここが好き。展」の様子
秋吉:naoshima colorsや空き家調査など、紗恵さんたちの活動で、直島の移住関連事業はかなり充実している印象があります。
本当に凄い。
それでもやはり課題はあるんですか?
紗恵:とりあえずスタートを切れたという所まではいいと思うんだけど、それが100%の状態で稼動できているかというと、まだまだ出来る事はあるな思ってます。
例えば、空き家バンクで言えば、一年目の調査でだいたい100軒の空き家が見つかったんだけど、実際に登録していただいてるのは20軒ほどだったり。
立ち上げたばかりというはあるけど、もうちょっと物件は増やしていけるなぁと思ってますね。
老朽化があまり進んでいない物件からケアしていく事が大切なのかなぁと。
移住相談業務で言えば、相談者のケアをどうしていくかはこれからも考えていく必要があると思ってます。
思ったよりも問合せは多いし、内容も人によって様々。
すごく具体的に決まっている人もいれば、漠然としてる人もいる。海外からの問合せもある。
そうした人たちのケアは常に改善しながらだろうなぁと思ってます。
秋吉:常に改善していくという心がけが、きめ細かなケアにつながるんですね。
そう意味ではずっと100点はないんでしょうね。
3年前の事についても少し伺わせてください。
そもそも紗恵さんが地域おこし協力隊を始めたきっかけってなんだったんでしょうか。
紗恵:実は、地域おこし協力隊になる前から、直島に住みたいと思ってたんですよね。笑
でも、家を探すのが本当に大変で、どうしていいか全然分からなかった。
都会みたいに不動産屋さんがいるわけじゃないし、かといって役場に情報があるかというと、当時はなかった。
結局、自分たちで歩き回って家を探したんです。
正直、「これでは住める人は増えないだろうなぁ」って感じがしましたね。
そんなこともあって、自分たちと同じように直島移住に関して悩んでいる人の手助けになりたいなと思えたし、自分たちと同じ小さい子どもがいる世帯に一緒に直島に住んでもらえたらいいなぁと思ったんです。
その時に地域おこし協力隊というものを知って、協力隊としてそうしたサポートがしたいと思うようになった。
これがきっかけですね。
秋吉:自分たちが困ったのと同じように、他にも困っている人がいるはずだと思ったんですね。
そもそも最初に直島に住もうと思えたのはどうしてなんですか。
紗恵:私はもともと田舎で育ったので、のんびりした所で子育てはしたいけど、実家の環境がちょっと物足りないと思っている所もあったんです。
田舎だけど、人の出入りがある所が良かったんですよね。
直島って世界中から色んな人が来る町なので、そこが凄く魅力的でした。
あとはアートにとても興味があったので、そこも良かったかな。
秋吉:ご自身が望むライフスタイルと直島が重なったんですね。
「実際に移住してみると大変でした」みたいなギャップはありませんでしたか?
紗恵:ギャップかぁ、そんなに無かったですねぇ。笑
住みづらいと思った事も無いし。
あー、でもあるとするなら、若干保守的だったことかな?笑
私が元々東京でフリーランスとして仕事をしていたので、かなり自由に仕事をするスタイルだったんですが、島ではそういうスタイルの人はほとんどいない。
島にとって今まで無かったポジションだったので、島や行政のルールに自分があてはまらないことが多かったです。
そういう中で「ルールの中でやらないといけない」とか「新しくルールを作らないと」みたいなことを最初は少し感じましたね。
でも、役場の方や地域の方に助けていただいて、今はだいぶ解消されてます。
良かったギャップもありますよ。
人の出入りについては国内だけを考えていたんですが、実際住んでみると海外の人の出入りがもの凄く多かったんです。
運良く日本のインバウンドが盛り上がってきたタイミングだったので、英語も日常的に使うし、自分の目も自然と世界に向けらるようになりました。
力の抜けた状態で、海外に友人ができたり、海外との仕事を考えられるのは全く想像してなかった良いギャップでしたね。
子どもにとってもいい環境だなぁと感じてます。
秋吉:本当にお子さんにとってはとってもいい環境ですよね。
外国の方と話すのが日常的ですし。うらやましいです。
紗恵さんのこれからについても伺っていいですか。
これからの暮らしやお仕事はどのように考えてますか。
紗恵:まず直島には、、、しばらくはいます。笑
子どもものびのび遊んでるし、ご近所のみなさんとも良くお付き合いさせていただいてるし、自分にも友達ができたし、暮らしの環境と言う意味ではいい環境にいるので、しばらくはここに住んでいこうかなぁと思ってますね。
仕事はいくつかのことを考えていて、1つは移住体験住宅の運営ですね。
これは協力隊時代から続けてきたものを引き続き運営していくつもりです。
もう1つは輸入代理店業。
すでにスタートはしているんだけど、こちらでも少しなりわいをつくれればいいなぁと思ってます。
1つのもので起業するっていうよりは、いくつかのものを組み合せてバランスを取っていく感じですね。
特に輸入代理店は、協力隊の活動とは少し違う領域なんだけど、3年間直島に住んだ中で出てきたものなんですよね。
日頃から海外の人と話すようになったり、英語が楽しくなってきたりして、海外とつながりをもつようなことをやりたいと思えるようになったんです。
しかも、直島は全国から人が来るので、自分から動かなくてもマーケティングができる可能性があるんですよ。
あとは子育てとも両立したいので、自分がずっとお店に立つ仕事というよりは、時間を調整しながらできる仕事を創りたいと思ってたんです。
そうした中で見つけた自分の仕事って感じですね。
自分の起業のスタンスというか、根本にあるのは、地域おこし協力隊の活動の延長であるとか、地域活性化といったことから離れて、地方でも一般的な起業ができるんだということが示したかったという想いですね。
地域おこし自体を仕事にするのではなくて、その地域で普通に自分らしい仕事をすることができれば、それが豊かな社会につながると思ってるんです。
それが起業でも就職でもいいんだけど、みんなが自分らしく地域で仕事する。
それが本質的な地域おこしにつながると思っていて、輸入代理店業が私にとってそういう仕事になればいいなぁと思ってます。
▲写真はベトナムのブランドToheのアイテム。近々ウェブショップもスタート予定です。
秋吉:うわぁ、とっても共感します。
直接的な地域おこしでなくても、自分らしい仕事が結果的に地域おこしになる。
地域おこし協力隊にもそうした流れがこれから増えて来ると思いますね。
活動当初からこうしたなりわいづくりをイメージされていたんですか。
紗恵:最初はまったく想像してないですね。笑
活動当初は島小屋の利益を大きくしていこうとか、協力隊でやってきたことを請け負うNPO法人を作ろうとか考えてました。
でも実際やってみると、島小屋は観光の波に大きく左右されるし、もっと自分らしいことがしたいと思うようになってたんです。
だから全然当初の想像と違う所に今いますね。笑
今のように考えるようになったきっかけは、ご縁…ですね。
たまたま海外旅行先で出会った人と輸入についてメールでやり取りするようになったら、その会社の社長さんが研修で直島に来る事があって、島でもお会いして話が出来て、具体的に進んだとか。
そういうご縁が本当に多かったかなぁ。
その延長線上に今の仕事があるような気がしますね。
秋吉:ご縁ですか…
ご縁を自分のチャンスに活かすのは、簡単そうで難しいことだと思うのですが、どうやったらいいご縁を作れるのでしょうか。
人と付き合う時に意識していることなどあれば教えてください。
紗恵:意識的に何かしてるってことはないですね。
割と直感型なので、あっと思ったらギュッと掴むって感じかなぁ。
決して上手くはないんですよ。
たまに誰とでも人脈を作れるような人っているじゃないですか、、、私はまったくそういうタイプではないですね。
ずぼらだし、大雑把だし、いい人でも無いし。笑
でも、何事もここぞって思ったら掴んどけ!みたいな意識はあるかな。
それは人脈に限った話じゃないですけど、心のどっかにはありますね。常に。
秋吉:ギュッと掴む…
分かるような分からないような…笑
この人は掴まなきゃ。って思うのはどんな人に対して感じるんですか。
紗恵:うーん、なんだろうね。笑
これだって感じはあんまりないですね。
自分にない魅力があったり、自分にできない発想ができたりとかかなぁ。
言葉にするのは難しいけど…なんかそんな感じです、直感です。笑
秋吉:人の出入りがある直島に魅力を感じたのも、そうした意識があったからかもしれないですね。
自分以外の人への好奇心が、良いご縁を招いているような気がします。
最後に、これからの協力隊になる人や現役の協力隊に向けて何かアドバイスがあればお願いします。
紗恵:そうですね。
これからなる人は、真剣にやらないといけないと思います。
受入側もしっかり準備してくれたり、頭を悩ませてくれたりしてくれているので、半端な気持ちで来ると、半端にだけやって帰るということになっちゃうと思うんです。
良く問い合わせがあるんです。
「地域おこし協力隊に興味があります」って。
でもそれだけだと少し足りないんじゃないかと思ってるんですよね。
地域おこし協力隊という制度ではなくて、そこの地域だったり、何をしたいのかだったり、そうした所にフォーカスしてから来ないと、お互いにいい結果にならないと思いますね。
少し騒がれ過ぎてると思います。
その地域がどういう場所で、何を求められているかくらいはきちんと踏まえてからこないといけないんだと思いますね。
すでに活動している人に向けては、、、私が言わなくてもいいんじゃないかなぁ。
今私の周りにいる協力隊の人たちはみんなやりたいことがあるし、活動も未来のことも引き続きやるだけだと思いますね。
特に島に入ってる人は頼もしいですよね。
みんなやりたいことがはっきりしているし、「島に住みたい」っていう時点でいろんな覚悟とか準備はしてきてるだろうから、その辺が強いですよね。
みなさん、それぞれの未来に向かってこれからも頑張ってください。
秋吉:はい!頑張ります!!!
紗恵さん本日はどうもありがとうございました。
3年間、本当にお疲れ様でした。
紗恵:はい。こちらこそ、どうもありがとうございました。
今後とも宜しくお願いします。
3年間の任期を満了した紗恵さん。
「自分と同じように困っている人を手助けしたい」という発想からスタートした地域おこし協力隊活動の中で、自分らしく働ける仕事も見つけていきました。
直島町で1人目の地域おこし協力隊ということで、色々と大変だったことも多かったでしょうが、取材中多く口にされたのは行政職員や地域住民への感謝の言葉でした。
常に感謝の気持ちを忘れずに、ご縁を大切にする。
こうしたことが自然にできる紗恵さんだからこそ、たくさんの人を惹き付ける優しい雰囲気を纏えるのだと思います。
紗恵さん、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願い致します。
山岸 紗恵(やまぎし さえ)
武蔵野美術大学建築学科を卒業。
キュレーターのアシスタントとして、パブリックアートの企画、内装デザイン等を担当。
その後、フリーランスとなり、住居やオフィスデザイン、不動産企画等に携わる。
出身地:茨城県
活動地域:直島
活動開始年月:平成26年5月
関連サイト:「NAOSHIMA COLORS」